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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)10979号 判決

原告 関正彦

右訴訟代理人弁護士 牧野彊

鎌田久仁夫

被告 川崎健

右訴訟代理人弁護士 猪瀬敏明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、別紙物件目録一1記載の建物のうち北面地上五・五メートルの高さから南に仰角三〇度をもって形成される平面より上部の建物部分を撤去せよ。

2  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の右建物の北面に存する別紙図面一中の(1)ないし(3)の各窓に接着してその窓全面にアルミルーバー状の、同面に存する階段及び踊場の外側全面に床面から高さ二メートルの範囲内にスクリーン状の各目隠を別紙図面一ないし三のとおり設置せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は別紙物件目録二1記載の土地(以下「原告所有地」という。)及び同地上の同二2記載の建物(以下「原告建物」という。)を所有し、昭和三三年ころからそこを生活の本拠として家族とともに居住している。

2  被告は、原告所有地の南側に隣接し、被告の母である訴外中島善栄(以下「訴外善栄」という。)の所有に係る別紙物件目録一3、4記載の土地(以下「被告旧敷地」という。)上にあった、同じく同女所有の同目録一2記載の二階建木造建物(以下「被告旧建物」という。)に居住していたが、昭和五一年一一月、右旧建物を取り壊し、被告旧敷地及び右土地に隣接する同女所有の同所三九番の土地一部を合わせた土地(以下、右各土地を総称して「被告敷地」という。)を敷地として同目録一1の鉄筋コンクリート造陸屋根三階建の居宅一棟(以下「被告建物」という。)を建築した。

(被告建物の一部撤去について)

3  被告旧建物は、その北面において、現在の被告敷地の地盤面から五・五メートルの高さを基準として南に仰角三〇度をもって形成される平面の位置に二階部分の屋根があったため、右旧建物が存在していた当時の原告建物に対する日照は、一階部分については相当時間が妨げられたが、二階部分については冬至においても全く影響されなかった。

4  被告は昭和五一年九月から被告建物の新築工事を開始したが、それに先立つ同年六月二〇日、原告に対し右建物の建築について同意を求めてきた。その際、被告は、被告建物は三階建の予定ではあるが、一階は車庫として敷地を掘り下げ建築するため、その高さは被告旧建物よりわずかに高くなる程度であり、これによって原告が現に享受している原告建物の二階部分の日照を阻害することはない旨確約した。そのため原告は被告に対し右建築に対し同意をした。右のとおりであるから、原告と被告との間においては、右により、被告が原告建物の二階部分の日照を阻害しない旨の不作為義務を負うことを内容とする合意が成立した。

5  ところが、被告はその後旧建物に比べはるかに高い被告建物を建築するに至った。そのため、原告は被告建物により原告建物の一、二階のすべての日照が全時間にわたって奪われ、一日中日影の生活を強いられることとなり、原告の健康な日常生活を全面的に否定される結果となった。

6  これは明らかに前記合意に基づく被告の不作為義務に反するものであるから、被告は、右義務違反行為の結果を除去するため、原告建物において従前の日照が確保できるよう被告建物の上部を撤去すべき義務、すなわち被告建物のうち被告敷地の地盤面から同建物の北面五・五メートルの高さの位置を基準として南に仰角三〇度をもって形成される平面を超える部分を撤去すべき義務がある。

7  仮に原、被告間における右合意の存在が認められないとしても、

(一) 原告所有地及び被告敷地はいずれも都市計画法上の住居地域内にあり、原告は前記のとおり居住のためその所有地を利用しているものであるところ、およそ居住のための土地の所有権においては地上における日照の確保ということもその内容の一つとして含むものであり、また右土地上に生活する者は右土地を利用し健康な日常生活を営む権利すなわち人格権を有するものである。したがって右土地の所有者は土地に対する直接の侵害行為のみならず、その支配下にある日照等の違法な侵害に対しても土地所有権又は人格権に基づきその排除を求めることができるものと解される。そして本件のような住居地においては、少なくとも居住建物の二階部分において、冬至の際に正午を中心に前後各二時間の日照が確保されなければその効用が全うされないものというべきであるから、右日照を妨げる行為は違法といわざるをえない。ところで、被告建物の築造行為は原告建物に対する日照をまったく奪うものであるから、違法であることは明らかである。

(二) 加えて、原告は、被告建物の建築の途中で東京地方裁判所に対し右建物の三階以上の建築工事中止の仮処分(東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七四三三号事件)を申請したが、被告は、原、被告双方の審尋期日(昭和五一年一一月一二日)における裁判官の、現況のままで工事を中止するようにとの勧告及びその後の建築工事禁止の仮処分命令(同月二二日)をいずれも無視し、同月二五日まで右工事を強行し三階部分以上のコンクリートを打ち終えたものであり、その違法性は著しいものがある。

(三) ところで、原告建物の二階において、冬至の際正午を中心として前後各二時間の日照を確保するためには被告建物の高さを被告旧建物と同一の高さにまで切り下げる必要がある。したがって被告は、前記6の場合と同様、被告建物のうちその北面において地上五・五メートルの高さより南に仰角三〇度で形成される平面より上部にある部分を違法建築部分として撤去すべき義務がある。

(被告建物に対する目隠の設置について)

8  被告建物の北面には、別紙図面一のとおり、同図面中に(1)ないし(3)として表示した三つの窓(以下それぞれを「(1)の窓」ないし「(3)の窓」という。)及び被告建物に出入りするための階段、踊場が設置されているが、被告建物の敷地である被告敷地と原告所有地との境界からの距離は、(1)、(2)の窓及び階段、踊場がいずれも一メートル未満、(3)の窓が一・六八メートルである。

9  (1)ないし(3)の各窓及び階段、踊場はいずれも原告所有地を観望すべき位置、構造にあり、また右の階段、踊場は民法二三五条の「椽側」に準ずるものというべきである。

10  更に(3)の窓は原告所有地との境界から一メートルを超える位置にあるが、民法二三五条において境界線から「一メートル未満とされているのは、相隣関係の調整に関する標準的距離を規定したにとどまるものであって、右以上の距離が存したとしても、それが右一メートルをさして超えない程度の距離であり、かつ窓等からの観望により隣地所有者の生活に重大な支障を来たすことが予想され、他方窓等を設ける側の土地又は建物所有者にとって右窓等に目隠を付することがその生活に何らの支障ももたらさないことが明らかな場合は、民法における相隣関係調整の法理に照らし、所有者は隣地所有者に対し民法二三五条の類推により目隠を設置する義務を負うものと解すべきである。ところで、被告建物の北面は原告建物の南面と向かい合っており、被告建物の(3)の窓の正面は原告建物の二階寝室とされているため、右窓から外部を観望すれば否応なしに原告の寝室を覗き見ることになり(なお、右窓は開閉可能でもある。)、原告としては生活上多大の支障を被るが、被告建物内における(3)の窓は二階から階段を登り三階の各部屋に出入りするための踊場の位置にあり、そこに目隠を施したとしても被告建物における被告の生活には何らの支障も生じない。したがって右(3)の窓についても民法二三五条が類推適用されるべきである。

11  各目隠が、その充分な効用を発揮するためには、別紙図面一ないし三のとおりの要領で設置されるべきである。

12  よって、原告は被告に対し、主位的には原、被告間の合意、予備的には原告の土地所有権又は人格権に基づき、請求の趣旨第1項のとおりの被告建物の一部撤去を求めるとともに、民法二三五条に基づき請求の趣旨第2項のとおりの目隠の設置を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。ただし昭和三四年当時においては原告建物は平家建であった。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実のうち、被告旧建物が存在していた当時においても原告建物の一階部分の日照が妨げられていたことは認めるが、その余は否認する。

4  同4の事実のうち、被告が昭和五一年六月二〇日原告に対し被告建物の建築について同意を求め、その同意を得たこと、被告が同年九月から被告建物の工事を開始したことは認めるが、その余は否認する。

5  同5の事実のうち、被告建物が被告旧建物に比べ高度を増したことは認めるが、その余は否認する。

6  同6は争う。

7  同7(一)の事実のうち、原告所有地及び被告敷地が住居地域内にあり、原告が右土地を居住のため利用していることは認めるが、その余は争う。日照の阻害は、原告建物についてではなく原告所有地を中心に考えればよく、また、冬至において日照阻害があったとしても直ちに違法とすべきではない。春、秋分、夏至における日照の状況も考慮すべきである。

同7(二)の事実のうち、原告が被告建物の建築途中においてその主張の仮処分を申請し、その主張の日に原、被告双方の審尋期日が開かれたことは認めるが、原告主張の仮処分命令が昭和五一年一一月二二日になされたことは不知、その余は否認する。被告が右仮処分命令の出されたことを知ったのは同月二四日であり、それ以後は被告建物の三階部分の工事をしていない。なお、被告建物の躯体工事は右同日をもって完了した。また、右審尋期日において、被告は裁判所に対し被告建物の三階部分の工事を中止等する意思のないことを伝えている。

同7(三)の事実は否認する。

8  同8の事実は認める。

9  (1)ないし(3)の各窓が原告所有地を観望すべき位置、構造を有することは否認し、階段、踊場が民法二三五条の「椽側」に準じるものであることは争う。

三  被告の主張

(被告建物の一部撤去について)

1 原告は昭和五一年六月二〇日被告に対し、被告が被告建物を新築することに同意する際、右新築にあたって原告が被るべき日照、騒音等の被害を受忍する旨承諾した。したがって原告が本訴において原告建物における日照の被害を主張し、被告建物の一部撤去を請求することは許されない。

2 被告建物による原告の日照阻害は、次に述べる諸事情からみて原告の受忍限度を超えるものではなく、違法とはいえない。

(一) 被害の程度

被告建物は前記のとおり昭和五一年一一月二四日当時既に躯体工事が完成しており、被告らは現に被告建物を居住の用に供している。したがって既に完成した建物の一部を収去するには、被告らの居住の利益を保護するためにも、原告の日照被害が特に著しいことを必要とすべきであるが、その被害の程度は部分的であり僅少である。また、前記のとおり日照の阻害の程度を判断するには冬至における日影のみではなく、春、秋分、夏至等における日影をも考慮すべきである。他方、本件のような都会の人口窓集地においては日影の平面図によって日照被害の程度をみるべきであり、側図面で判断すべきではない。

(二) 地域性

原告所有地及び被告敷地付近は、前記のとおり住居地域であり(その他右土地付近は防火地域、第三種高度地区、第一種文教地区に指定されている。)、商業地域に近接している。そして、付近には三階建以上の建物が多く、被告敷地の南側隣地には四階建の高級共同住宅(「代々木プリンスマンション」)が存在するほか、近隣の住居地域内には七階建の高級共同住宅(マンション)、第二種住居専用地域内には五階建の高級共同住宅(マンション)等が存在する状況にある。

(三) 原告所有地及び被告敷地付近の土地の特殊性

原告所有地及び被告敷地附近は南側が高く北側が低い状態で傾斜しており、そのため被告敷地は原告所有地より〇・三メートル程高く、一方被告敷地の南側隣接地は被告敷地面より二・五メートル程高いという雛段状の形態をなしている。したがってこのような土地に建物を建築する場合、いずれにしても南側の建物が北側の土地建物に対しある程度の日照阻害をもたらすことは避けることができない。

(四) 被告による被害回避のための努力

被告は、被告建物を建築することにより原告を含む近隣居住者に対し日照の被害が生じることを回避するため、右建物の位置を当初の設計よりも二〇センチメートル程西側へ移動させたほか、敷地を掘り下げ原告所有地の地盤面より低くして建物の高さをできる限り低くし、また、建物の容積率の規制限度が三〇〇パーセントであるところを一七〇パーセントに押え、建蔽率も五八パーセントとして、右建物を被告ら家族の居住のため必要最小限の広さ、間取りのものとしたほか、原告側からの要求を入れて、被告建物の北面の屋上立上り手摺(パラペット)の東側部分を鉄製パイプ手摺に変更した(その他、被告建物の出窓二か所、北面東側のバルコニー一か所を設計から削除した。)。

(五) 被告建物の用途、構造

被告建物は最高の高さが一一・四〇メートル、軒の高さが八・四〇メートルの三階建の建物であるが、一階は車庫、倉庫として二・六メートルの高さとし、二、三階は被告ら家族(被告、妻、子供二人、訴外善栄)の居室として使用している。一階部分を車庫としたのは、前記のとおり被告敷地の南側隣地が被告敷地面よりも約二・五メートル程高くその境が崖状となっていることから、一階部分が居住に適さないためである。また二、三階の構造、間取りについては、前記のとおり、被告ら家族の日常生活にとり必要最小限のものにした。

(六) 被告建物の公法的規制との適合

被告建物は建築基準法に適合しており(被告は昭和五一年八月二六日に建築基準法に基づく確認の通知を受けている。)、また、昭和五一年における同法の一部改正により設けられた同法五六条の三に基づく東京都の「日影による中高層建築物の高さに関する条例」にも牴触していない。

(七) 被告建物の建築に対する近隣住民の同意

被告建物の建築については、前記のとおり原告の外、他の近隣住民(訴外田中定雄、同桑原毅、同亀山宗香)も同意している。

(八) 複合的な日照の阻害

被告建物の南側隣地には四階建の高級共同住宅(「代々木プリンスマンション」)が建築されたため、原告所有地は午前一〇時ころから午後四時ころまでその日影の影響も受けるはずであり、被告のみが原告建物に対する日影の責を負うべき理由はない。

(被告建物に対する目隠の設置義務について)

3 被告には原告の主張するような目隠を設置すべき義務はない。

(一) (1)ないし(3)の窓はいずれも曇りガラスが嵌め込まれており、また(1)の窓は開閉不可能な、いわゆる「嵌め殺し」の構造とされているほか、(2)の窓は浴室の換気のため設けられているものであって床面から高さ二メートルの位置にある。更に(3)の窓は被告建物内の三階の踊場兼出入口、廊下に設けられているもので、人が立ち止まることのない場所にある。右のとおりであるから、被告らがいずれの窓からも原告所有地及び原告建物を観望するようなことはありえない。

また(3)の窓については、原告の自認するとおり、原告所有地との境界から一メートル以上離れた位置にあるため、その点からも目隠の設置義務はない。

(二) 被告建物の本件階段及び踊場は、被告らの生活に供されるものではなく、単に被告らの通行のためにあるにすぎないから、民法二三五条の「椽側」に含まれるものではない。また右階段、踊場の外側には既に九〇センチメートル巾(各階段面及び床面からの最高の高さは一・七メートル)の不透明な塩化ビニール板を取り付けてあるため、そこから原告の宅地内を観望することは不可能な状況にある。

四  被告の主張に対する原告の認否、反論

1  被告の主張1の承諾がなされた事実は認めるが、その趣旨は争う。右の近隣住民として受忍限度内の日照阻害等については苦情を申し立てないとするものにすぎず、本件の場合のようにその受忍限度を超えた被害についてまで一切権利を放棄する趣旨のものではない。

2  同2(一)は争う。なお、被告建物の躯体工事が完了したとしても、現在の工法をもってすればその躯体の切断撤去は容易である。したがって被告建物の完成によりその撤去義務が免責ないし宥恕されるいわれはない。

3  同2(二)の事実のうち、原告所有地及び被告敷地付近が住居地域、防火地域に指定されていること及び被告敷地の南側隣地に高級共同住宅(「代々木プリンスマンション」)が建設されたことは認めるが、その余の地域指定については知らない。原告所有地等の近隣に被告主張の高級共同住宅が存在することは否認する。

4  同2(三)の事実のうち、原告所有地付近が雛段状の形態となっていることは認める。

5  同2(四)の事実のうち、原告が被告に対し被告建物の屋上北面の立上り壁(パラペット)を鉄製手摺とすることを申し入れ、被告がその東側部分について右申入れに従った施工をしたこと及び原告が被告主張の出窓、バルコニーについて被告と協議したことは認めるが、その余は知らない。

6  同2(五)の事実は知らない。

7  同2(六)の事実のうち被告が被告建物について建築確認の通知を受けたことは認める。被告建物が建築基準法及び日照条例等に違反しないとしても原告に対する日照侵害を正当化するものではない。

8  同2(七)の事実は認める。

9  同2(八)の事実のうち、被告主張の共同住宅が建築されたことは認めるが、その余は否認する。「代々木プリンスマンション」については、原告らが日照確保のため交渉した結果、原告建物の二階の日照には影響が及ばないような形態に変更された。

第三証拠《省略》

理由

第一  請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

第二  被告建物の一部撤去の請求について

一  まず、原告主張のように、原、被告間において請求原因4のとおりの合意が成立したかの点から判断する。

被告が昭和五一年六月二〇日被告建物の建築を開始するにあたり、原告に対し右建物の建築について事前に同意を求め、その旨の同意を得たことについては当事者間に争いがなく、また《証拠省略》によると、その際、被告は原告に対し被告建物の配置図及び設計図を示し、被告建物の概要の説明等と合わせて、右建物は三階建であるが、被告旧建物の地盤面を掘り下げて施行するとともに一階は車庫とする予定であるため通常の三階建物より低いものになること、また、被告建物の位置は被告旧建物当時より一・五メートル程東側に拡幅される予定であること等の説明をなしたことが認められ(る。)《証拠判断省略》しかしながら、その際、被告が原告に対し、原告建物における従前の日照量の確保について原告主張のとおり確約したことについては、《証拠省略》中にはこれに副うかのような部分があるが、これは《証拠省略》及び後記二の1のとおり、原告が被告建物により日照の被害等を受けるについて、それが近隣住民としての受忍限度の範囲内である限りで承諾していることに照らし、にわかには措信できず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって右合意の存在を前提とし、その履行を求める原告の請求は失当である。

二  次に、原告は、被告建物による原告建物に対する日照妨害は原告所有地の土地所有権またはこれに居住する原告の人格権に対する侵害にあたるので、その排除を求める旨主張するので判断する。

1  まず、被告は、原告が右のとおり被告建物の新築について同意する際、右新築に伴う日照の阻害について承諾し、右日照の阻害を理由とする被告建物の排除を求める請求権を予め放棄した旨主張するので考える。

原告が被告に対し原告建物の日照の阻害等について、近隣住民としての受忍限度の範囲である限りで承諾したことは原告の自認するところであるが、右範囲を超えるものについては承諾しないことは明らかであるし、また《証拠省略》によると、その際原、被告間において原告建物に対する日照量の変化等に関し具体的な説明、応答がなされたものではなく、原、被告とも原告建物に対する日照の被害の程度について後記三2のような状況となることを予測しないまま原告が承諾したものであることが認められる。そうであれば原告による右承諾は、少くとも本件のようなかなりの被害が生じた場合にまでをも対象とする趣旨のものとは解されないから、本件について原告が予め請求権を放棄したとみなすことはできない。

右認定を覆えし、被告の右主張を認めるに足りる証拠は他に存しない。

2  そこで、原告の土地所有権又は人格権の侵害を理由とする請求について検討する。

居住の用に供される土地又は建物に対する日照は、快適な生活を維持するための法益ではあるが、その法益は土地建物を利用したうえでのものであって、これら土地建物の利用に内包される関係にあるから、右法益を侵害する行為に対しては、被害者は右土地建物の所有権またはそれに対する利用権に基づき、その排除を求めることができ、そして、隣地に建物が築造されることにより生ずるこの法益に対する侵害は、人が社会生活を営む以上、土地利用との関係上相隣者間に不可避に生ずるもので、隣人間の相互受忍を必要とするから、その限界を超える、いわゆる、社会的受忍限度を超えるものに限り、右請求ができると解するのが相当である。なお、右受忍限度を判断するにあたっては、日照被害の程度、被害発生地の地域性および地形を柱として、その外に、加害建物の用途及び加害回避の可能性、加害建物の公的規制適合の有無、排除請求が認容された場合における加害者の損害、被害者、加害者間の交渉経過等諸般の事情を加味して、比較検討しなければならない。

しかして、かかる観点から本件を検討すると、次のとおりである。すなわち、

(1 原告建物及び被告建物、被告旧建物の配置状況)

《証拠省略》によると、原告建物、被告建物相互の平面上の位置関係は別紙図面四のとおりであり、そのうち被告建物の北面の形状は別紙図面五のとおりであるほか、その高さは敷地上から三階屋上床面までが約八・八メートル、同屋上床面から屋上手摺上部までが約一・一メートル、同屋上床面から塔屋上部までが約二・六メートルであること、他方、原告建物の南面の形状は別紙六のとおりであり、高さは敷地上から屋上まで約六メートルであることが認められる。

また、《証拠省略》によると、被告旧建物は被告建物を建てる際に取り壊したため、その正確な位置関係は不明であるが、原告の所蔵する既存の写真、訴外西崎国光作成の日影図、被告旧建物の登記簿中における末面積の表示等から、その位置は別紙図面七のとおりであったものと推測され、また右建物の敷地面からの高さは約七・六メートルであったものと認められる。これに反する《証拠省略》の各記載は、作成者である証人西崎国光の証言によると必ずしも正確なものではないことが窺えるため採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

(2 被告建物による原告建物の日照の阻害状況)

(一) まず冬至における午前八時から午後四時までの原告建物の日照状況について検討する。

《証拠省略》によると次の事実が認められる。

原告所有地における日影は、被告旧建物の当時は別紙図面八のとおりであった(ただし、午前九時から午後三時まで)が、被告建物の場合は別紙図面九のとおりである。更に、これを原告建物の南面の各開口部(窓)についてみるならば、被告旧建物及び被告建物のそれぞれの日影時間は別紙一覧表のとおりであり、そのうち午前九時から午後三時までの日影状況を具体的に図示すると別紙図面一〇のとおりとなる。

すなわち、現在の被告建物による日影は、原告建物の一、二階とも午前八時ころから被告建物の影を西側の窓に映し始め、午前九時ころには一、二階の西側及び中央の四つの窓がすべて影になり、午後零時には一階東側の窓も影に覆われる。そして右時間においては二階東側の窓も八分の三程が影となるため、この時点における日照は右の二階東側の窓のうち八分の五程度確保できるのみである。更に午後一時ころには原告建物の日照がすべて妨げられ、同時ころから午後二時ころにかけては二階東側の窓の上部に若干の日が射す程度で、午後二時ころには右窓にも原告建物自身の日影が現われるため再び全面が影となる。その後一、二階の各西側の窓の西面から日が入り出し、午後三時ころには右各窓の西面三分の一程度につき日照を回復し、午後四時ころには右各窓のほぼ全面に日照を受けるまでに至る。

他方、これが従前の被告旧建物の場合においては、午前九時ころから原告建物の一階西側の窓に被告旧建物の日影が現われ出すが、午後零時ころにおいてもその影は一階西側及び中央の各窓を覆う程度で、二階の各窓については日影が生じなかった。その後午後一時ころにはその影が一階東側窓の西面及び下部、二階西側及び中央各窓の下部に及び、午後二時ころには一階東側窓の全面が影となるが、その代り一階西側窓の西面に日が当たり出すに至る(なお、二階東側窓の西面約三分の一程度も影となるが、これは原告建物自身によるものである。)。そして午後三時ころには一、二階の中央窓及び一階東側窓がほぼ全面、また二階東側窓の下半分近くが影となる(なお、右二階東側窓の上部にも影が現われるが、これは原告建物自身によるものである。)が、一階西側窓は四分の一程度、二階西側窓は若干程度の影を受けるのみとなり、以後午後四時ころにかけては右一、二階西側の窓はその全面に日を受けるに至り、一、二階の中央窓もしだいに西面から日照を受け出す状態にあった。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

(二) 次に、春、秋分時における午前八時から午後四時までの原告建物の日照状況について検討するに、《証拠省略》によると次の事実が認められる。

現在の被告建物による日影の場合、別紙図面一一のとおり、原告建物の一階西側の窓はその部分によって約一時間から四時間半、同中央の窓は約二時間半から五時間、同東側の窓は約四時間から五時間程度の影響を受け、また二階中央の窓の三分の一程度は約一時間から三時間程の影響を受ける(ただし、二階東側の窓にも約二時間から二時間半の影を生じるが、それは原告建物自身の日影と考えられる。)。他方これが被告旧建物の場合においては、別紙図面一二のとおり、原告建物の一階東側窓の下方若干部分に約一時間程度の影を生じる(ただし、右の二階東側の窓にも約二時間から二時間半の影を生じるが、それは原告建物自身の日影と考えられる。)が、その余の各窓については日影が現われることがなかった。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三) なお、被告敷地の南側隣地に四階建の高級共同住宅「代々木プリンスマンション」が存在することは後記3のとおり当事者間に争いがないが、《証拠省略》によると、「代々木プリンスマンション」から生じるはずの原告建物に対する冬至及び春、秋分時の日影は、いずれも被告建物から生じる右日影を超えるものではないこと、また「代々木プリンスマンション」の右日影と被告旧建物によるそれとを比較した場合には、時間によって右プリンスマンションによる日影が右旧建物による日影を超え、直接原告建物に現われることになるが、冬至においても右のとおり超過した日影が原告建物の二階の各窓にまではほとんど及ばないものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(3 原告所有地及び被告敷地付近の地域性)

《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる。

原告所有地及び被告敷地は国鉄新宿駅、同代々木駅から徒歩で一〇分足らずの、副都心新宿を背にした交通至便の地にあり、その五〇〇メートル程南には代々木公園、八〇〇メートル程東には新宿御園等の緑地を控えた環境良好な住宅地であって、附近建物の現況は、二階建程度の居宅、共同住宅等がかなり密集して建ち並んでいるものの、四階建以上の建物についても、原告所有地から約二〇〇メートル以内に、公務員住宅、銀行の寮、「秀和代々木レジデンス」「代々木コーポラス」「メゾン代々木」等の高級共同住宅(マンション)等が築造されており、また、本訴係属中にも、被告敷地の南側隣地に四階建の高級共同住宅「代々木プリンスマンション」「代々木ニューハイツ」等の高級共同住宅(マンション)が竣工するなど、原告所有地附近に限定してみると、急速に住宅が高層化した土地の高度利用が進められていること、

また、原告所有地附近を都市計画法及び建築基準法上の用途地域の指定の面からみると、右土地は住居地域の外に、第一種文教地区、第三種高度地区と定められ、この地域は巾約二〇メートルの帯状にわたって指定され、右地域内に前記中高層マンションが築造されていること、そして、右ほぼその南側の地域が第二種住居専用地域に、そのほぼ北側の地域が商業地域に指定され、その商業地域は原告所有地の西側に面する公道をはさんだ一帯に指定されており、このように、用途地域の指定についても、原告所有地附近は建物の高層化による土地の高度利用が予定されていること、

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(4 被告建物の用途及び加害回避の可能性)

《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる。

(一) 被告建物は被告及びその家族(妻、幼児二人)と被告の母である訴外善栄が居住するために建てられたものであり、現に右被告らが居住している。

(二) 被告敷地の形状は別紙図面一三のとおりであり、間口七・二メートルをもって公道に接する実測面積一〇九・五七平方メートルの奥行の長い不整形な土地であるため、右土地を建物の敷地として利用するにあたってはそのほぼ全面を使用せざるをえない。そのため建築確認申請がなされた際に計画された被告建物の位置は同図中に表示されたとおりであり、その後その位置は区の指導により約二〇センチメートル程西側へ移動した(因に、被告旧建物もほぼ同様の位置に所在していたが、南北の長さは被告建物とほぼ同一、東西の長さは右建物より一、二メートル前後短かった。また被告建物の形状には若干の修正が加えられ、現在の形態は別紙図面四のとおりである。)

(三) 原告所有地及び被告敷地付近の土地の起伏はほぼ南から北へ向かって下方へ傾斜しており、そのため被告旧建物が所在していた当時の旧敷地面は原告建物の敷地面より約三〇センチメートル程高く、また当時の南側隣接地(被告建物の新築工事の着工時においては駐車場とされていた。)の敷地面より約二メートル程低いという状況にあった。そこで被告(旧)敷地上における建物の一階部分はいずれにしても隣接地の地盤の影となるため、被告は被告建物を新築するにあたり、それを三階建とし、一階を車庫、二、三階を住居とすることにした。そして、原告建物に対する日照阻害を少くするため、建物の高さをなるべく低く押え、一階の高さを二・六メートル(二、三階はいずれも三・一メートル)とするにとどめ、さらに、被告旧建物当時の旧地盤を掘り下げて原告建物の敷地面より約四〇センチメートル程低くなるようにした。更に、被告建物の二、三階の間取りについては、別紙図面一四の(1)(2)のとおり、居間二室、台所二室、寝室二室、子供部屋一室としたものであって(なお、その後、区の指導により二階東側の出窓を取り、三階の東側壁を三〇センチメートル程西側へ後退させた。)、被告夫婦と子供及び被告の母が住むにはさほど余裕はない。

(四) なお、被告建物の容積率は一七〇パーセント(規制値三〇〇パーセント)、建蔽率は五八パーセント(規制値は六〇パーセント)であり、その外右建物が建築基準法等公的規制に違反する点はない。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(5 原告及び被告の交渉経緯)

前記一、二の事実に、《証拠省略》を総合すると次の事実が認められる。

被告は昭和五一年六月二〇日原告宅を訪れ、原告に対し被告建物の建築計画の概要を説明し、その建築の同意を得たが、その際原告から右建物の設計の一部につき修正を求められた。そこで被告は同月二二日ころ被告建物の設計を行った訴外西崎国光らとともに再び原告宅を訪れ、原告及び原告の子であり一級建築士の資格を持つ訴外関和明らと協議するに至った。その席上、原告側から被告側に対し、被告建物の北面に設置するよう設計されていた出窓二か所を取り除くこと、屋上にあるコンクリート製の手摺(パラペット)のうち北面のものについては鉄製のパイプとすること等の申入れがなされ、被告側は右の点を了承し、右出窓を取り除き、北面屋上の手摺部分のうち東側については鉄製パイプとするよう設計を変更した(原、被告間において、右のとおり出窓を取り除き、屋上北面の東側の手摺部分を鉄製パイプとする旨合意したことは当事者間に争いがない。)。また、右話合いの際、原告が被告建物の建築によって生じる日影の状況を示す日影図の提供を求めたため、被告は後日提出することを約した。そこで、被告は訴外西崎から被告建物及び被告旧建物の平面日影図を作成して貰い、同月二四日ころこれを原告の妻を通じて原告に交付したが、原告としてはその日影図の内容について格別の検討を加えることまではしなかった。一方、被告は、同月二五日に被告建物の建築確認申請書を渋谷区役所に提出し、同年八月二六日に右確認の通知を受け、同年九月初めに被告旧建物を取り壊し、同月一五日ころから被告建物の基礎工事に取りかかった。ところが、同月二五日ころ、原告から被告に対し被告建物の建築面積及び建蔽率に疑問があること、三階部分についても原告の当初の予想より高いものであることを理由として工事を取り止めるよう要求があった。そこで、同年一〇月五日ころ、被告と訴外西崎が再度原告宅を訪れ、被告建物の建築面積、建蔽率等につき原告に説明をしたが、その際、原告があくまで三階部分の工事の中止を求めたため、被告側は既に建築確認を受け工事材料の手配も済ませていること等を理由にそれを拒否し、話合いがつかなかった。また、その際原告は原告建物に対する日照についても危惧を抱くに至り、被告に対し原告建物についての立面日影図の提示を求めたが、被告はそこまでの義務はないとしてこれについても応じなかった。そこで、原告は自ら、一級建築士である訴外清水辰弥に依頼して原告建物についての平面及び立面日影図の作成を受けたところ、冬至において原告建物の南側の窓が前記三2のとおりかなりの時間にわたって日照の阻害を受けることを知り、急遽、同年一一月東京地方裁判所に対し被告建物の三階部分についての建築工事の中止を求めて仮処分を申請するに至った(東京地方裁判所昭和五一年(ヨ)第七四三三号事件。原告が東京地方裁所所に対し右のとおり仮処分を申請したことは当事者間に争いがない。)。右事件については、同年一二月以降数回にわたり原、被告双方の審尋期日が開かれ、裁判官による和解が試みられた(同月一二日に右審尋が行われたことは当事者間に争いがない。)が、被告側が、被告建物の主要構造部分をこの時点で変更することは再度の建築確認申請の手続を要することになること、被告の家族構成からみて被告側として三階部分を削ることはできないこと等を理由に設計の変更に応じなかったため、和解は不調に終り、同月二二日付をもって裁判所から相手方である被告に対し被告建物の三階以上の工事を中止するよう命じた仮処分命令が発せられた。しかし、被告が被告代理人を通じて右仮処分命令を知ったのは同月二四日ころであり、当日までには被告建物の躯体についての工事は完成していた。なお、被告は右処分命令に対し異議を申し立てたがその異議事件(東京地方裁判所昭和五一年(モ)第一六二九八号事件)の手続中において、昭和五三年三月二九日、被告が被告建物の内装及び外装を行うこと等につき和解が成立し、それに基づき、被告は右工事を再開し、被告建物を完成した。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(6 被告建物の一部撤去費用)

《証拠省略》によると、被告建物の三階部分を取り壊した場合の費用は昭和五二年八月一〇日現在において一九八万五〇〇〇円程度であり、また、被告建物が仮処分命令の発せられた時点における躯体のみの状態であったならば、右費用は更にそれより四、五〇万円程低額になるはずであったこと、しかし右費用は単に三階部分を取り壊すのに要する費用のみであり、取壊しに伴い残余の建物部分に対し施行することを要する防水、配管、配線等の工事費用は含まれていないことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(7 原告以外の近隣の者の同意)

被告が原告以外の近隣の者からも被告建物の建築について同意を得たことは当事者間に争いがない。

以上認定に係る諸事実に基づき原告の右請求を判断するならば、被告建物が建築されることにより原告が被った日照の被害は、特に冬至についてみた場合、原告建物の南側窓のうち一、二階の西側及び中央の各窓においてはほぼ一日中、また一階東側の窓においては午後零時以降、二階東側の窓においては午後一時以降、そのほとんどの日照を失うに至ったり(ただし、右窓の午後二時以降の日影は原告建物自身によるものである。)、被告旧建物当時の日照量と比較すると、その阻害の程度は著しいものがあることは否定できないが、それでも、春、秋分時においては相当量の日照を享受することが可能であること、原告所有地附近は、副都心新宿の近くで交通も至便の位置にあり、現況および用途地域の指定からみても、中高層の高級住宅地として予定され、急速に変容し、土地の高度利用が進んでいること、原告所有地と被告敷地は共に傾斜地にあり、原告所有地が被告敷地より一段低くなっており、もともと、日照確保には地形上不利な位置にあること、右被告敷地上の被告建物は、建築基準法等の法的規制に適合するのみでなく、渋谷区の指導に従って、その高さ、配置、構造、広さにつき、右地形、被告の家族構成からみて、合理的範囲を保っていること、仮に、原告主張に副って被告建物の三階部分を撤去するとすれば、被告家族の住居として著しく狭隘となる外に、その費用も低額とはいえないこと等を比較考慮すると、原告建物に対する前記日照被害をもってしては、いまだ、原告主張の被告建物の撤去を求めるにつき受忍の範囲を超えたと判断することはできない。

なお、被告は被告建物の築造について、結果的に、当裁判所のなした工事禁止仮処分決定に反して工事を続行したことを認めることができるが、これとて被告に悪意はないから、その点を考慮に入れても、右判断を左右することはできない。

第三  目隠設置の請求について

一  請求原因8の事実は当事者間に争いがない。

二1  原告主張の各窓のうち(3)の窓については、原告所有地と被告敷地との境界からの距離が民法二三五条の要件を満たすものではなく、同条に基づくところの右窓について目隠の設置を求める原告の請求は失当である。

この点について原告は、原告及び被告側の諸事情を考慮し相隣関係の法理から同条を類推適用すべきことを主張するが、同条において明確に一定の距離をもって要件としている以上、特段の事由のない限り右距離を安易に伸縮することは妥当でない。しかし、右窓からの観望により隣地居住者の生活が侵害される場合においては、被害者は加害者に対し前述日照被害の法理と同じ理由で、右窓に対する目隠の設置を求めうると解すべきところ、《証拠省略》によると、右(3)の窓は、被告建物の踊り場兼出入口、廊下という、通常、人の立ち止まることのない場所に設置され、しかも、右窓には曇りガラスがはめ込まれており、これを通じて原告建物を見透すことができない状況にあることを認めることができるから、このような状況下で、原告が被告に対し、更に、右窓に目隠の設置を求めることはできないというべきである。

したがって、原告の右請求は理由がない。

2  次に、(1)及び(2)の窓についてみるに、《証拠省略》によると、(1)及び(2)の窓はいずれも曇りガラスが嵌め込まれ、右窓の内側からガラス越しに原告所有地及び原告建物の内部を見極めることは無理であること、また(1)の窓は開閉が不可能な構造とされており、(2)の窓は開閉自体は可能であるが、浴室の換気のため設けられたもので、浴室の床面から高さ約二メートル程の位置にあることが認められ(る。)《証拠判断省略》

そうであれば、(1)及び(2)の窓とも、実際に原告所有地を観望できる構造ではないから、右各窓は民法二三五条の「他人ノ宅地ヲ観望スヘキ窓」には該当しないものというべきであり、右各窓について目隠を求める原告の請求は失当である。

三  また、原告は、その主張の階段、踊場をもって同条にいう「椽側」に準ずべきものと主張するが、右の「椽側」とは、家の外側に沿い、室の外にある細長い板敷をいうものと解されるところ、原告の主張する階段、踊場はその形態からみていずれも被告建物の出入口(玄関)に続く通路にすぎず、明らかに「椽側」とは異なるものである。したがって右階段及び踊場を「椽側」もしくはそれに準ずるものとみなすべきことは相当でなく、そのことを前提とする原告の右主張も失当である。

なお、附言するに、《証拠省略》によると、右階段、踊り場の外側には既に、被告において九〇センチメートル巾(床面から最高一・七メートル)の不透明塩化ビニール板を取りつけ、同場所からは、通常原告建物を観望できない状態下にあることを認めることができるから、原告が、前述日照被害の法理と同様の理由で右個所にその主張どおりの目隠しの設置を求めるものであっても、原告は被告に対し更にこれ以上の右目隠しの設置を求めることはできないというべきである。

したがって、原告の右主張も理由がない。

第四  結論

よって原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口和男 裁判官林豊、裁判官持本健司は転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 山口和男)

〈以下省略〉

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